静力学平衡

静力学平衡とは

正確には「重力(下向き)」と「気圧傾度力(上向きの圧力の差)」が釣り合っている状態を指します。

引用:一般気象学

Δp=−ρgΔz(またはΔpΔz=−ρg)\Delta p=-\rho g\Delta z\quad \left(\text{または}\quad \frac{\Delta p}{\Delta z}=-\rho g\right)

各記号の意味は以下の通りです。

  • Δ p:気圧の変化(Pa)
  • Δ z:高度の変化(m)
  • ρ(ロー):空気の密度(kg/m³)
  • g:重力加速度(約 9.8 m/s²)

・・・というのはわかりにくいので、言葉で説明します。

静力学平衡とは、上向の気圧傾度力と、重力が釣り合っているという平衡状態のことです。

  • 下向きの力(重力)
    地球が空気の分子を下に引っ張る力です。
  • 上向きの力(気圧傾度力)
    大気は地面に近いほど濃く(気圧が高く)、上に行くほど薄く(気圧が低く)なります。流体には「気圧の高い方から低い方へ押し出そうとする力(気圧傾度力)」が働くため、空気は下から上へと押し上げられます。

この「大気を下に引っ張る重力」と「大気を上に押し上げる圧力の差」の大きさが完全に同じになり、上下方向で相殺されている状態を「静力学平衡(または静水圧平衡)」と呼びます。

この式の「ー」は何のため?

Δp=−ρgΔz(またはΔpΔz=−ρg)\Delta p=-\rho g\Delta z\quad \left(\text{または}\quad \frac{\Delta p}{\Delta z}=-\rho g\right)

この式のマイナス(-)は、「高度が上がると、気圧が下がる」という逆の動き(反比例の関係)を表すためにあります。

数学や物理の式において、マイナスは単に引き算だけでなく、「一方の数値が増えたとき、もう一方が減る」という方向性を表す重要な役割を持っています。

式の左側と右側の変化をそれぞれ見てみましょう。

  • 高度の変化(Δz\Delta z):
    上へ登る(高度が上がる)とき、Δz\Delta z はプラス(正の値)になります。
  • 気圧の変化(Δp\Delta p):
    上へ行くほど空気は薄くなるため、気圧は下がります。つまり、Δp\Delta p はマイナス(負の値)になります。

もし、この式にマイナスがついていないと、以下のようになってしまいます。

(マイナス)=(プラス)×ρ×g\text{(マイナス)} = \text{(プラス)} \times \rho \times g

これでは左側と右側で符号が合わず、イコール(等号)が成り立ちません。

右側にマイナスをつけることで、以下のように計算の辻褄(つじつま)が合います。

(マイナス)=−(プラス)×ρ×g\text{(マイナス)} = \boldsymbol{-} \text{(プラス)} \times \rho \times g

具体的なイメージ

  • 山を登る(Δz\Delta z が増える) → 気圧は下がる(Δp\Delta p は減る)
  • 山を下りる(Δz\Delta z が減る) →気圧は上がる(Δp\Delta p は増える)

このように、「高さの変化と気圧の変化は、常にプラスマイナスが逆の動きをしますよ」という大気のルールを数式で表現するために、このマイナス(-)が絶対に欠かせないのです。

問題文の「静力学平衡が成り立っていると仮定する」はどういう意味?

「積乱雲などの激しい現象は起きておらず、大気は穏やかに動いている(または静止している)」と仮定して良い、という意味になります。

「難しく考えなくてもいいんだな」という直感は非常に正しく、問題文にあるこの文言は、受験者を混乱させるための罠ではなく、むしろ「複雑な例外は全て無視して、一番シンプルな公式だけで解いていいですよ」という出題者からの優しいサインです。

「理想気体の状態方程式」との組み合わせ方

「状態方程式」とどう組み合わせるのか、その仕組みを最もシンプルなステップで説明します。
ここが分かると、気象学の計算問題の基礎がマスターできます。

使う道具(式)は2つだけです。

  1. 静力学平衡の式: Δp=−ρgΔz\Delta p = -\rho g \Delta z
  2. 理想気体の状態方程式:p=ρRT p = \rho R T

なぜ組み合わせる必要があるの?

静力学平衡の式には、空気の密度「ρ\rho (ロー)」が入っています。しかし、空気の密度を直接測ることは難しいため、実際の気象観測では「気圧 pp 」と「気温 T T」を測ります。
そこで、「測りにくい密度 ρ\rho を消して、測りやすい気圧 pp と気温 T T だけの式に作り替える」ために組み合わせます。

組み合わせる手順

状態方程式p=ρRTp = \rho R Tを、ρ=\rho =の形に変形します。

ρ=pRT\rho =\frac{p}{RT}

これを、静力学平衡の式 (Δp=−ρgΔz(\Delta p = -\rho g \Delta z ) の ρ\rho の部分に代入します。

Δp=−(pRT)gΔz\Delta p=-\left(\frac{p}{RT}\right)g\Delta z

少し並び替えると、次のようになります。

Δpp=−gRTΔz\frac{\Delta p}{p}=-\frac{g}{RT}\Delta z

この式から何が分かるの?

この合体した式は、気象学で「層厚(そうこう)の式」や「測高公式」と呼ばれる超重要公式のベースになります。
この式を見ると、以下の素晴らしい事実が分かります。

  • 「気圧の変化率(Δpp\frac{\Delta p}{p})」は、気温( TT )と高度の差(Δz)(\Delta z )だけで決まる。
  • つまり、ある場所の「気圧」と「気温」が分かれば、そこが標高何メートルなのかを計算でピタリと当てることができるようになります(登山用時計の高度計が動く仕組みです)。

難しそうな数式ですが、やっていることは「測りにくい密度を、測りやすい気温と気圧に変えただけ」です。

静力学平衡が登場した過去問

学科一般~過去問私的解説&考察~第65回気象予報士試験・問2

静力学平衡の状態にある乾燥空気の気層において、上面と下面の高度差をΔz、気圧差をΔp、平均密度をρ、重力加速度をgとするとΔp = – ρg Δz の関係が成り立つ。

ここで Δz = 100m、気層の気圧の平均値を 500hPa、平均気温を -23°C としたときの Δp の絶対値として適切なものを、下記の①~⑤の中から1つ選べ。

ただし、g =10ms-2、乾燥空気の気体定数は 287JK-1kg-1 とする。

③ 7.0hPa

はれの
はれの

上面と下面の高度差をΔz、気圧差をΔp、平均密度をρ は、下図のようなことですね。

問題文より、以下の条件が与えられています。

  • Δp=−ρgΔzΔp=-ρgΔz (静力学平衡の式) …☆
  • 高度差 Δz=100mΔz= 100m …☆に代入できる
  • 気層の気圧の平均値 500hPa …☆
  • g=10ms-2 …☆に代入できる
  • 乾燥空気の気体定数 287JK-1kg-1 …☆
  • 平均気温 -23°C …☆

与えられた☆を、 Δp = − ρ g Δz に代入すると

Δp = – ρ × 10 ms-2× 100 m 

これで、「密度 ρ 」の値がわかれば Δp を求めることができます!

平均気圧と気体定数、平均気温もわかっているので …☆
気体の状態方程式が使って密度ρ を求めましょう。

密度ρ は気体の状態方程式から求めます。

※ 1Pa = 1 N / m2
 1 N = 1 J / m ▶︎▶︎▶︎ 1 J = 1 N•m

面倒だけど、計算しましょう…ρ ≒ 0.7kg/m3

これの ρ の値を Δp = −ρ g Δz(静力学平衡の式)に代入

よって解答は③の 7 hPa!

学科一般~過去問私的解説&考察~第64回気象予報士試験・問6

北半球の緯度の異なる2 つの地点の温度と風の関係について述べた次の文章の空欄 (a)〜(c)に入る語句の組み合わせとして正しいものを、下記の①〜⑤の中から1つ選べ。 ただし、この2つの地点の上空では静力学平衡および地衡風平衡が成り立っているもの とする。

 北半球の緯度30°の地点Aと緯度45° の地点Bにおいて、1000hPa等圧面上で風速 5m/s の南風が吹いている。

また、A、B両地点では 1000hPa から700hPaの層内の 平均温度は、いずれも東西方向に一様で南から北に向かって低くなっており、その水平温度勾配は両地点で等しい。

このとき700hPa 等圧面における風速は(a)。

また、 地点Aと地点Bの1000hPaから 700hPaの層内ではともに  (b) となっており、その大きさは(c)。

解答

① 
(a)地点Aの方が大きい
(b)暖気移流
(c)地点Aと地点Bで同じである

解説

 北半球の

  • 緯度30° の地点A
  • 緯度45° の地点B

において、1000hPa等圧面上で風速 5m/s の南風が吹いています。

また、A、B両地点では 1000hPa から700hPaの層内の 平均温度は、いずれも東西方向に一様で南から北に向かって低くなっており、その水平温度勾配は両地点で等しい。

ここまでの情報でわかっていることは地点Aと地点Bは、緯度が違うだけ。
他は全部同じ条件です。

このときの700hPa 等圧面における風速は、緯度 30° の地点 A の方が大きいです。

その理由は、コリオリ力。

コリオリ力は、理論上赤道でゼロ。緯度が高くなるほど大きくなります。

コリオリ力が大きくなるということは、風を曲げる力が大きいということ。

風を曲げる力が大きい方が、結果として風速を弱めてしまうので、風速が大きいのはどちらかと聞かれたら、緯度の低い方。
つまり風速は、緯度30°の地点Aの方が大きいことになります。・・・(a)

次に(b)について。

地点Aと地点Bの1000hPaから 700hPaの層内において、暖気移流かか寒気移流かということを考えます。

問題文より、「1000hPa等圧面上で風速 5m/s の南風が吹いている。」であり、「A、B両地点では 1000hPa から700hPaの層内の 平均温度は、いずれも東西方向に一様で南から北に向かって低くなっており、その水平温度勾配は両地点で等しい。」ということなので、暖気移流だとわかります。

次に(c)。「この暖気移流(温度移流)は、地点Aと地点Bで同じなのか?異なるのか?」を問うています。

温度移流の大きさは温度分布と風によって決まるので、直接緯度が関係することはありません。

よって(c)は「地点Aと地点Bで同じである」。

・・・・・とはいえ、(b)で、700hPa面の風速は地点Aの方が大きいってわかったよね?

しかも緯度は地点Aの方が低緯度。ものすごく単純に考えれば地点Aの方がコリオリ力が小さいので、風向の傾きが小さく、東西方向の等温線となす角は、地点Bより小さい。

じゃあ、1000hPaから700hPaまでの気層の温度移流も、地点Aの方が大きくなるんじゃないの???というのが晴野の考えでもあります。

でもでも、与えられた条件だけで考えると、(c)は「地点Aと地点Bで同じである」のかなというところに落ち着くのです。

学科一般~過去問私的解説&考察~第60回気象予報士試験・問8

図は、北半球における安定で静力学平衡及び地衝風平衡が成立している大気の、ある高度の範囲における南北鉛直断面である。

実線は等圧面、破線は等温位面を、またとはそれぞれ西風と東風の地衡風を表し、その大きさで風速の大小を示している。

図(a)~(e)のうち、等圧面、等温位面、地衡風の風向・風速の関係が正しいものを、下記の①~⑤の中から1つ選べ。

解説はこちら(期間限定公開)

学科一般~過去問私的解説&考察~第60回気象予報士試験・問7

図は、軸対称の気圧分布・風速分布をもつ低気圧の中心とその周辺の気温及び気圧の分布を、高度1000m から2000mの範囲で模式的に示したものである。この低気圧に伴う風と気圧について述べた次の文章の下線部(a)~(d)の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の①~⑤の中から1つ選べ。

ただし、この低気圧の範囲では静力学平衡、及び傾度風平衡が成り立っており、コリオリパラメーターは一定、風向はどの高さでも同じとする。

また、以下の文では気圧差は高い気圧から低い気圧を引いた差であり、すべて正である。

傾度風平衡にあるこの低気圧においては(a)気圧傾度力がコリオリカと遠心力の和と釣り合っている。

また、この低気圧では、どの高度でも中心に近いほど高温であった。

このとき、2つの高度1000m、2000mで考えると、静力学平衡の仮定より、中心O の周辺の点R における2つの高度間の気圧差 ΔPR は、中心Oにおける2つの高度間の気圧差ΔPo より (b) 大きい。

このことから、高度2000mにおける2点でO’、R’間の気圧差ΔP2000  は高度 1000mの2点 O、R間の気圧差ΔP1000より (c)小さいことが分かる。

これらのことから、中心ほど高温で軸対称な分布を持つこの低気圧においては、高度が高くなるほど風速は(d)小さくなることが分かる。

解説はこちら(期間限定公開)