ウインドプロファイラとは?
地上から空に向かって電波を放ち、空中で散乱して戻ってきた電波を解析することで、上空の風向・風速を測定する装置です。
愛称: 「ウィンド(風)」の「プロファイル(断面図)」を作るという意味で、全国33カ所に設置されています(通称:WINDAS/ウインダス)。
パラボラアンテナではなく、コンパクトで高性能な、ドーム(パッチアンテナ)が並んだ「四角いパネル状」のタイプが主流です。
(冬季に積雪の影響を受ける観測局では、測器全体をドームで覆っています。)
引用元:気象庁「ウィンドプロファイラの仕組みと観測例」
仕組み(どうやって測るの?)
- 電波の発射: 垂直と傾斜した4方向(計5方向)に電波を発射します。
- 散乱: 電波が空気中の「屈折率のわずかな変化(湿気や温度のムラ)」に当たって跳ね返ります。
- ドップラー効果: 風に流されているものに反射するため、戻ってくる電波の周波数が変化します(救急車が通り過ぎる時の音の変化と同じ原理)。
- 算出: この変化量から、各高度の風の向きと強さを計算します。
ウインドプロファイラの電波の波長
気象庁が現在全国(WINDAS)で運用しているウインドプロファイラの電波の波長は、約22cmです。
- 周波数: 1.3GHz(ギガヘルツ)帯 ※正確には1357.5MHz
- 波長: 約22cm
なぜこの波長なの?
電波の波長には、それぞれ「得意な標的」があります。
- 約22cm(Lバンド): 空気のわずかな密度のムラ(乱流)を捉えるのに適した長さです。これにより、雨が降っていない「晴天」の時でも、空気そのものの動きを観測できます。
- 比較: 一般的な気象レーダー(雨を測るもの)の波長は約5cm(Cバンド)などで、これは「雨粒」を捉えるのが得意ですが、晴天時の風を測るのには向きません。
豆知識:昔や研究用は違うことも
かつて気象研究所などで使われていた初期のモデルや、海外の非常に高い空(成層圏など)を測る装置では、もっと長い波長(例:波長75cm/404MHz帯など)が使われていたこともあります。現在の気象庁の標準は22cmと覚えておけば間違いありません。
気象レーダーは、主に 3~10 cm の波長
1.3GHz(波長 22cm)の電波を使用するウィンドプロファイラを実用化する ことにしました。
主なメリット
- 連続観測: 風船(ラジオゾンデ)は1日2回程度ですが、これは10分ごとに自動で観測できます。
- 高解像度: 上空数メートルから数キロメートルまでの風の動きを、細かく「見える化」できます。
どんな役に立つの?
- 集中豪雨の予測: 大雨のもとになる「湿った暖かい空気」の流入をいち早くキャッチします。
- 航空安全: 離着陸に影響する上空の急な風の変化(乱気流など)を監視します。
得意な観測(強み)
- 風の急変のキャッチ: 10分ごとという短い間隔で観測できるため、前線が通過した瞬間の風向きの変化などを逃さず捉えられます。
- 晴天時の風の動き: 空気中のわずかな密度のムラ(屈折率の変化)を反射に使うため、雨が降っていない「晴天」でも上空の風を正確に測れます。
- 台風の構造解析: 台風が近くを通る際、上空の高い場所(高度7〜9km程度)まで風の変化を詳細に見ることができます。
- 乱気流の検知: ドップラー速度の幅(補正スペクトル幅)を見ることで、大気の乱れや乱気流の指標として活用できます。
不得意な観測(弱点・注意点)
- 不均一な風の場: 「観測点周辺の風はどこも同じ(一様)」と仮定して計算するため、狭い範囲で激しく渦を巻くような風や、小さな積乱雲による急激な気流の変化がある場所では正確な計算が難しくなります。
- 鉛直速度の混同(雨の日):
- 晴れの日: 空気の上下運動(鉛直風)を測れます。
- 雨の日: 電波が雨粒に強く反射してしまい、空気の動きではなく「雨粒が落ちる速さ」を測ってしまいます。
- 鳥エコー(異常値): 上空を飛んでいる鳥に電波が当たると、それを風と勘違いして異常な値(鳥エコー)を出すことがあります。※現在は自動で除去する技術も導入されています。
- 乾燥しすぎた空気: 上空が非常に乾燥していて空気のムラが少なすぎると、電波が十分に跳ね返ってこず、データが欠落することがあります。
「晴天時は風のリーダー、雨の日は雨粒に邪魔されることもある」
雨の日には気象ドップラーレーダーとデータを補い合っている
前線通過時の主な特徴
- 風向の急激な変化(時計回り)
- 前線が通過する瞬間、風向きがガラッと変わります。
- 日本付近では、一般的に「南よりの風」から「西〜北よりの風」へと変化するのが典型的なパターンです。
- 風速の変化
- 前線の境界付近では風が一時的に強まったり、通過後に一気に吹き出したりする様子がリアルタイム(10分ごと)で確認できます。
- 上空から地上への「時間差」の可視化
- ウインドプロファイラの断面図(時系列図)を見ると、上空の高いところから先に風が変わり始め、後から地上の風が変わるといった「前線の傾き」が斜めのラインとして綺麗に見えることがあります。
- 上昇気流の発生
前線付近では空気がぶつかり合って上昇するため、鉛直成分(上下方向)のデータに強い上昇気流が記録されることがあります。
前線面の「高さ」の見方
前線は「暖かい空気」と「冷たい空気」の境界線です。冷たい空気の方が重いため、地上付近を潜り込むように進みます。
- 下の矢羽根: まだ冷たい空気の中にあります。
- 上の矢羽根: その上にある暖かい空気の影響を受けています。
- 前線面: この「下の冷たい空気」と「上の暖かい空気」が切り替わっている境界そのものを指します。
断面図(時系列図)での現れ方
ウインドプロファイラのデータ(WINDAS)を見ると、時間の経過とともに風向が急変する高さが、だんだん「低く」なったり「高く」なったりして動いていくのが見えます。
- 寒冷前線の場合: 通過と共に、冷たい空気の層が厚くなるので、風向の変わり目(前線面)が下から上へとせり上がっていくように見えます。
- 温暖前線の場合: 暖かい空気が冷たい空気の上を這い上がってくるので、前線面が上から下へと降りてくるように見えます。
前線面の探し方
「矢羽根そのもの」というよりは、「矢羽根の向きがガラッと変わっている、その『境目』の線」が前線面である
ウインドプロファイラの観測図(時系列断面図)で、前線がどのように「斜めのライン」として現れるのでしょうか。
ポイントは、「冷たい空気の層が厚くなるか、薄くなるか」という視点です。
1. 寒冷前線の場合(冷たい空気が押し寄せる)
冷たい空気(寒気)が、暖かい空気の下に潜り込みながら進んできます。
- 図の特徴: 風の変わり目(前線面)が、時間の経過とともに「右肩上がり」に見えます。
- 理由: 観測地点に寒気が流れ込むと、地上付近からじわじわと冷たい層が厚くなっていくため、上空の高いところまで風向きが変わる(寒気に覆われる)のに時間がかかるからです。
- 風の変化: 最初は地上付近だけ風向きが変わり、数時間かけて上空までその変化が波及します。
2. 温暖前線の場合(暖かい空気が這い上がる)
暖かい空気(暖気)が、冷たい空気の上をゆっくりと這い上がっていきます。
- 図の特徴: 風の変わり目(前線面)が、時間の経過とともに「右肩下がり」に見えます。
- 理由: 暖気はまず高い空からやってきて、冷たい空気の上を滑るように進みます。そのため、高いところから先に風が変わり始め、最後に地上の風が変わるからです。
- 風の変化: まず上空数kmの風向きが変わり、徐々にその変化が地上付近まで降りてくるように見えます。
(簡易図解)
横軸を「時間(右から左へ流れる)」、縦軸を「高度」とした場合:
- 寒冷前線:
/のような傾き(左に行くほど=時間が経つほど、境界が高い) - 温暖前線:
\のような傾き(左に行くほど=時間が経つほど、境界が低い)
※気象庁のHPなどで公開されているWINDASの図は、左側が最新(現在)になっていることが多いので、時間の進む方向に注意して書き込むと正確です。
低気圧が通過するときの風の変化
低気圧が自分の北側を通るか、南側を通るかで風の回り方が全く逆になります。これを専門用語で「転解(てんかい)」と呼びます。
1. 低気圧が「北側」を通過する場合(日本海低気圧など)
日本で最も一般的なパターンです。観測地点では風が「時計回り」に変化します。
- 接近時: 南東の風(湿った暖かい空気が流れ込む)
- 温暖前線通過後: 南〜南西の風(さらに暖かくなる)
- 寒冷前線通過後: 北西の風(一気に寒くなる)
- ノートの図: 矢羽根が SE(↘︎) → S(↓) → SW(↙︎) → NW(↘︎) と時計回りに回るイメージです。
2. 低気圧が「南側」を通過する場合(南岸低気圧など)
太平洋側で雪が降るときなどのパターンです。風は「反時計回り」に変化します。
- 接近時: 北東の風(冷たい空気が引き込まれる)
- 通過中: 北の風
- 通過後: 北西〜西の風
- ノートの図: 矢羽根が NE(↙︎) → N(↓) → NW(↘︎) と反時計回りに回るイメージです。
ノートにまとめる「プロの視点」
ウインドプロファイラで見ると、これが「全高度で一斉に起こる」のではなく、「上空から順に変わっていく」様子がリアルタイムで分かります。
チェックポイント: 「低気圧の中心が近いほど、上空の高いところまで風が強くなる(ジェット気流の影響など)」という特徴も書き添えると、より高度な内容になります。
気象庁HP(WINDAS)のチャート図を読み解く際の「実戦的な注意点」
1. 時間の進む向きに注意(右から左へ)
WINDASのチャート(時系列断面図)は、右側が過去、左側が現在という独特の表示になっています。
- 理由: 新しいデータがどんどん左から入ってくる(押し出されていく)イメージだからです。
- ノートのコツ: 「左に行くほど時間が進む」とメモしておかないと、前線の傾きを逆(過去から未来へ)に解釈してしまうので注意です。
2. 「矢羽根」の色と長さの意味
画面上の矢羽根には色がついていることが多いです。
- 色: 一般的に、赤やオレンジほど風が強く、青や緑ほど風が弱いことを示します(色尺が横についています)。
- 向き: 矢が向いている方向が「風が吹いていく方向」です。上が北、下が南、右が東、左が西です。
3. データが「白抜け」している理由
チャート上でデータが表示されず、白くなっていることがあります。
- 乾燥しすぎ: 反射する「空気のムラ」がなくて測れなかった(冬の上空など)。
- 雨の影響: 強い雨でデータがエラー(異常値)と判断され、自動でカットされた。
- ノートのコツ: 「データがない=観測ミス」ではなく、「空気が非常に安定している」または「激しい気象条件」である証拠、と書くとプロっぽくなります。
4. 高度の限界(限界高度)
ウインドプロファイラは、常に一定の高さまで測れるわけではありません。
- 空気の状態によって、上空12kmまで見える日もあれば、5kmくらいでデータが途切れる日もあります。
- ノートには「大気の状態によって観測可能な高さが変わる」と添えましょう。
実際の観測画像(チャート図)
気象庁の公式ウェブサイトでリアルタイムに公開されています。ノートにまとめる際の参考に、以下の手順でチェックしてみてください。
1. リアルタイムの観測データを見る
気象庁|ウィンドプロファイラ のページで、日本全国の最新状況を確認できます。
- 地図上の矢羽根: 現在の各地点の風向・風速が表示されています。
- 詳細チャート: 地図上の観測地点名(または矢羽根)をクリックすると、その地点の過去24時間の「高度ごとの風の変化(時系列図)」が表示されます。
- 更新間隔: データは1時間ごとに更新され、最新の観測状況が反映されます。
2. データの見方・解説を確認する
チャート図に描かれている記号や色の意味を詳しく知りたい場合は、以下の解説ページが役立ちます。
- ウィンドプロファイラのデータの見方(気象庁): 矢羽根の読み方や、色の違いが何を表しているのかが詳しく説明されています。
- ウィンドプロファイラとは(気象庁): 装置の仕組みや観測できる高さ(最大12km)についての基本情報がまとまっています。
3. 設置場所を確認する
「どこで測っているか」の地図を入れたい場合は、全国のウィンドプロファイラ観測点(気象庁) で全33カ所のリストと地図を確認できます。
引用元:気象庁「ウィンドプロファイラ長官記者会見資料130315.PDF」
過去の気象事例におけるウィンドプロファイラの観測記録は、「顕著な現象の観測例」として気象庁の資料などに数多く残されています。
これらは、装置の有効性を証明したり、予報官が特定の現象を分析したりするための貴重なデータとなっています。代表的な記録例をいくつか紹介します。
台風通過時の記録
台風が観測地点のすぐそばを通った際、風向きが「時計回り」または「反時計回り」に激しく入れ替わる様子が高度10km以上にわたって記録されています。
- 事例: 2001年(平成13年)の台風第15号では、水戸の観測局で「台風の目」の通過に伴う風の急変が非常に鮮明に記録されました。
- 内容: 台風の目が近づくにつれて強い南東風が弱まり、通過後は一転して強い北西風に変わる様子が、全高度で連続的に捉えられています。
引用元:気象庁「ウィンドプロファイラによる高層風の観測例」
前線通過時の記録
地上の天気図では「線」として描かれる前線が、上空に向かってどのように傾いているか(前線面)を捉えた記録です。
事例: 寒冷前線が通過する際、地上から徐々に冷たい空気(北寄りの風)が厚くなっていく様子が、斜めにせり上がる境界線として記録されます。 ▶︎寒冷前線通過前後の上空の風の変化(福井地方気象台)
もう一つ・・・
2003年6月8日は大東島付近に前線があり、5時40分には高度3km付近に前線面だとみられる風のシアー(変わり目、拡大図の赤線)が ウィンドプロファイラによって観測されています。シアーはその後高度を下げ7時頃には地上に達しました。(温暖前線の通過)
引用元:気象庁「ウィンドプロファイラの仕組みと観測例」



