気象学における「放射平衡」とは、地球などの天体が吸収する放射エネルギー(太陽光など)と、宇宙へ放出する放射エネルギー(赤外線など)が完全に釣り合っている状態を指します。
このとき、入ってくるエネルギーと出ていくエネルギーの量が同じになるため、その天体の平均温度は一定に保たれます。
放射平衡の仕組み
地球を例に、エネルギーの収支(釣り合い)を3つのステップで整理します。
①エネルギーの吸収
太陽から届くエネルギー(短波放射)のうち、約70%を地球(大気と地表面)が吸収して暖まります。残りの30%は雲や氷で宇宙に反射されます。

②エネルギーの放出
暖められた地球は、自ら宇宙に向けて赤外線(長波放射)を放出して冷えようとします。
③平衡(釣り合い)の成立
吸収する太陽エネルギーの量と、放出する赤外線エネルギーの量が等しくなったとき「放射平衡」に達します。
実際の地球と「温室効果」
もし地球に大気がなく、純粋な放射平衡だけで温度が決まると計算した場合、地球の平均気温は約 になってしまいます。
しかし、実際の地球の平均気温は約 です。
この差の 分は、大気中にある二酸化炭素や水蒸気などの温室効果ガスが、地球から出る赤外線を一度吸収し、再び地表面に向けて放射(再放射)しているために生まれています。
気象学では、この大気の効果も含めてエネルギーが最終的にどう釣り合っているかを「地球のエネルギー収支」として詳しく学びます。
引用:DNA気候学
放射平衡温度
放射平衡温度(ほうしゃへいこうおんど)とは、天体が吸収する太陽放射エネルギーと、自身が宇宙へ放出する地球放射(赤外線)エネルギーが完全に釣り合ったときの天体の平均温度のことです。
大気の影響(温室効果)を一切考慮しない、最も単純なモデルにおける地球の放射平衡温度は
約 () になります。 ←これが地球の放射平衡温度。
地球の放射平衡温度を求める
ステップ1:ステファン・ボルツマンの法則とは?
すべての物体は、その温度に応じたエネルギーを電磁波(放射)として放出しています。その量(放射強度 )を表すのが「ステファン・ボルツマンの法則」です。
- :物体の表面 あたりから、1秒間に放出されるエネルギー(単位:)
- (シグマ):ステファン・ボルツマン定数
- :物体の絶対温度(単位:)
つまり、「温度が高いほど、4乗の比例でめちゃくちゃ大量のエネルギーを放出する」という法則です。
ステップ2:地球全体が「出す」エネルギーを計算する
地球を「半径 の完全な球体」とみなします。
地球の表面全体から宇宙へ向けて放出される、地球全体の総エネルギーを計算します。
- 地球の表面積は、球の表面積の公式から です。
- あたりの放出量は です( は地球の放射平衡温度)。
- したがって、地球全体が宇宙へ出す総エネルギーは、面積を掛け算して次のようになります。
ステップ3:地球全体が「受け取る」エネルギーを計算する
次に、太陽から地球にやってくるエネルギーを計算します。
- 太陽から届く光の強さを (太陽定数 ) とします。これは、太陽の光に対して垂直な面 あたりに届く強さです。
- 地球は球体ですが、太陽の光は遠くから平行に差し込むため、地球が光をさえぎる面積(影の面積)は円の面積 になります。

- したがって、地球が受け取る太陽エネルギーの総量は になります。
しかし、地球は届いた光をすべて吸収するわけではありません。地球には雲や氷があるため、全体の
(アルベド = 反射率。約0.3)
をそのまま宇宙へ跳ね返してしまいます。
つまり、地球が実際に吸収する割合は (残りの約0.7)だけです。
これらを掛け合わせると、地球全体が吸収する総エネルギーが出ます。
地球が吸収する総エネルギー =(面積 × 太陽からのエネルギー × 地球が受け取るエネルギーの割合)
太陽定数は「太陽が出している全てのエネルギー」そのものではなく、「太陽から出たエネルギーが地球まで旅をして、地球の入り口に届いた瞬間の、1平方メートルあたりの強さ」のことです。
数式の上での違いをハッキリさせるため、「太陽が出している総パワー(太陽光度)」と「太陽定数」の決定的な違いを整理します。
1. 太陽が出している総パワー(太陽光度)
太陽が自ら放っているすべての放射エネルギーは、天文学や気象学で「太陽光度(たいようこうど)」と呼ばれます。
これは、太陽の温度(約5777K)からステファン・ボルツマンの法則を使って計算される「太陽全体の生み出す総エネルギー」です。
計算上の値: 約 ワット
(ゼロが26個も並ぶ、とてつもないエネルギーです)
太陽はこの莫大なエネルギーを、宇宙空間に向けて全方向(360度)にビームのように放ちます。
2. 太陽定数は「地球の取り分(単位面積あたり)」
太陽から放たれた光のビームは、宇宙空間を進むにつれてどんどん四方八方に広がり、薄まっていきます。
そして、太陽から約1億5000万km離れた「地球の軌道」まで届いたとき、光の強さはだいぶマイルドになります。
この地球の目の前(大気圏の外側)まで届いた光を、「光に対して垂直な の板」で受け止めたときのエネルギーの強さが「太陽定数」です。
実際の値: 約
つまり、太陽定数とは「太陽が発した総エネルギー(太陽光度)」が、地球の距離まで薄まった結果の『濃さ』を表しています。
まとめ 💡
「太陽定数」は、太陽が出している総エネルギーそのものではなく、地球の位置まで届いて薄まった『1平方メートルあたりのエネルギー量』を指します。
そして地球の放射平衡温度を計算するときは、この「地球に届いた瞬間の濃さ(太陽定数 )」をスタート地点として使っています。
ステップ4:2つのエネルギーを「イコール」で結ぶ(平衡)
「放射平衡」とは、「吸収するエネルギー」と「放出するエネルギー」が全く同じ(釣り合っている)状態のことです。
ステップ2とステップ3の式をイコールで結びます。
これが、先ほど突然登場した釣り合いの式です!
ステップ5:式を整理して を求める
ここから、求めたい「放射平衡温度 」だけを左側に残すように、中学校の数学のルールで式を変形していきます。
まず、両辺を見比べると、共通して がありますね。これで両辺を割って消去します。
左右を入れ替えます。
の前にある「」が邪魔なので、両辺を で割ります。
最後に、4乗するとこの形になる数(4乗根 )をとります。
このように、「ステファン・ボルツマンの法則」に地球の面積を掛け合わせたものと、「太陽光の強さ」に地球の影の面積と吸収率を掛け合わせたものをイコールで結ぶことで、この計算式が導き出されています。
地球表面温度の計算
先ほどの完成した式に、決められた4つの数字を電卓でパチパチと当てはめるだけで、誰でもまったく同じようにマイナス18℃を求めることができます。
あらためて、当てはめるだけの状態にした式と数字がこちらです。
当てはめる式
(※ は「4乗根」といって、電卓ならルートボタンを2回連続で押すだけで計算できます)
当てはめる数字(これらはすべて決まった定数です)
- ( のこと)
面倒なので計算しません&試験で計算させる問題の場合、正面から4乗根をさせることはありませんので省略しますが・・・下記のようになります。

なぜ実際の気温(約15℃)と違うのか?
計算上の放射平衡温度(➖ 18℃)と、実際の地球の平均気温(約 15℃)には 33℃ もの差があります。この理由は、この計算モデルが「大気が存在しない地球」を前提にしているからです。
実際の地球には大気があり、その中にある温室効果ガス(水蒸気や二酸化炭素など)が、地表面から放出された赤外線を吸収し、再び地表面に向けて「再放射」しています。この大気による保温効果(温室効果)が加わることで、地球は私たちが住みやすい快適な温度(約 15℃)に保たれています。
気象学では、この温室効果を考慮したモデルを「大気ありの放射平衡モデル」(1層大気モデルなど)と呼び、さらに詳しく学びます。
放射平衡温度のまとめ ✅
大気がないと仮定した場合、地球が太陽から受ける熱量と、宇宙へ捨てる熱量が釣り合う温度はマイナス18度になります。
