慣性振動(かんせいしんどう)とは、地球のような回転している物体の上で、気圧傾度力などの外力が働かない状態で運動する空気や海水が、コリオリの力(地球自転の影響)によって円を描くように動く現象のことです。
1. なぜ「振動」と呼ぶのか?
水平方向に初速を持った空気の塊(空気塊)があるとします。本来なら慣性で真っ直ぐ進もうとしますが、回転する地球上では進行方向を曲げようとする「コリオリの力」が働きます。
- 北半球の場合: 常に進行方向の右向きに力がかかるため、右へ右へと曲がり続け、最終的に元の場所に戻ってくるような時計回りの円運動になります。
- 南北方向や東西方向に注目すると、一定の周期で行ったり来たりを繰り返すように見えるため「振動」と呼ばれます。
2. 慣性振動の特徴
- 円軌道(慣性円): 外力がなく、コリオリの力だけで運動すると、半径 r = V / f
( V
は流速、
f はコリオリパラメータ)の円を描きます。
- 周期(慣性周期): 1周するのにかかる時間は緯度によって決まります。
- 北極・南極: 約12時間(最短)
- 緯度30度: 約24時間(ちょうど1日)
- 赤道: コリオリの力が働かないため、周期は無限大(円運動せず直進する)になります。
3. どこで見られる現象か?
- 海洋内部: 風によってかき混ぜられた海水の層などでよく観測されます。台風が通過した後の海面付近で、海水が円を描くように揺れ動く様子が流速計などで捉えられることがあります。
- 成層圏: 空気密度が低く、他の乱れが少ない上空では明瞭に現れることがあります。
4. 似た現象との違い
ふだん天気図で見かける風(地衡風など)は、「気圧の差による力(気圧傾度力)」とコリオリの力が釣り合って吹いています。これに対し、慣性振動は気圧の差などの「外力が全くない(あるいは無視できる)」特殊な状況下で起こる自由な運動である点が特徴です。